手を出さない人たち
「手を出さない人たち」は、EMENDIA が書き下ろした中学受験の作文・小論文の例題(記述型・小5向け・目安45分)です。二つの文章をふまえて、縦書きで自分の考えを書く練習になります。
対象 小5レベル3・標準(公立中高一貫の適性検査Ⅱ)記述型目安 45分
原稿用紙に書いた答案の写真を送ると、AI の添削がこう返ってきます。

返事は、別の問題の答案につけた見本です。この問題も、同じ形で添削します。1回払いで、自動では続きません。
文章
文章A 文章A すすめない司書
小学校の図書室で働いて十二年になる。この仕事を始めたころ、私は子どもに本をすすめるのが得意だと思っていた。読んだ本の数には自信があったし、この子にはこれ、と思いつく速さも人より早かった。
ところが、すすめた本はあまり読まれなかった。借りていくことは借りていく。けれど、返ってきた本を開くと、しおりが最初の十ページあたりに挟はさまったままのことが多かった。私はしばらく、選び方が悪いのだと思っていた。
考えが変わったのは、ある三年生の女の子がきっかけだった。その子は毎週、昆虫の図鑑ずかんばかり借りていた。私は物語も読んでほしくて、虫が出てくる物語を何冊もすすめた。どれも読まれなかった。ある日、その子が図鑑を返しにきて、カウンターの前で言った。「先生、この本、カブトムシのところだけ、もう二十回読んだ」。私は、二十回という数に驚おどろいた。同じ数ページを二十回読む子に、私は「別の本を」と言い続けていたのだ。
その日から、私はすすめる前に一つだけ聞くことにした。「今、どのページが好き?」。答えは、たいてい本の中の、私が見過ごしていた場所だった。すすめたい本は、その答えを聞いてから、そっと近くの棚に置く。手わたすのではなく、置く。手に取るかどうかは、その子が決める。
①すすめないことは、何もしないことではない。棚のどこに置くか、その子がいつ図書室に来るか、隣となりに何を並べるか。考えることは、手わたしていたころより増えた。ただ、最後の一歩だけを、その子に残しておく。
十二年たって分かったのは、本を読む力は、本を選ぶ力と一緒に育つということだ。選んでもらってばかりいると、選ぶ力は育たない。だから私は、今日も棚の前で、少し離れたところに立っている。声をかけたい気持ちを、ポケットにしまいながら。
文章B 文章B ろくろの前で
私の教室には、子どもも大人も来る。土を練り、ろくろを回して、器を作る。三十年この仕事をしているが、教えることについて、一つだけ守っている決まりがある。生徒の手に、自分の手を重ねないことだ。
ろくろの上で、土はよく傾く。傾いた土に手を添えて直してやれば、その場ではきれいな形になる。生徒も喜ぶ。けれど、次に一人でろくろの前に座ったとき、その人は同じところでまた傾かせる。私の手が直したのであって、その人の手が覚えたのではないからだ。
だから私は、傾いた土を見ても、手を出さない。かわりに、こう聞く。「今、どっちの手に力が入っていますか」。たいていの人は、言われて初めて、自分の右手ばかりに力が入っていることに気づく。気づけば、直せる。②直した形は残らないが、気づいた感覚は残る。
もちろん、見ているのはつらい。目の前で土がつぶれていくのを、腕を組んで見ているのだから。私が手を出せば三秒で直る。それを、十分、二十分と待つ。若いころは待てなかった。手を出して、その場で喜ばれて、三か月後にやめていく生徒を何人も見た。
今、私の教室でいちばん上達が早いのは、いちばん多く失敗した人だ。土は、何度でもやり直しがきく。つぶれた器は、水を足して練り直せば、また土に戻る。失敗しても消えないのは、その人の手の中の感覚だけだ。私の仕事は、その感覚が育つまで、手を出さずにそばにいることなのだと思っている。
言葉の意味
- 司書: 図書館や図書室で、本の管理や案内をする専門の人。
- ろくろ: 土を回しながら器の形を作る、陶芸の道具。
- 陶芸: 土をこねて焼き、器などを作ること。
- 上達: 技術がうまくなること。
問題
問1(120字)
文章Aに①すすめないことは、何もしないことではない。とありますが、筆者は本をすすめるかわりに、どのようなことをするようになりましたか。文章Aの言葉を使って、百二十字以内で書きなさい。ただし、一字あけずに、段落での改行はしないで続けて書きなさい。
条件
- 文章Aの言葉を使う
- 一字あけずに、段落を変えずに続けて書く
- 百二十字以内
採点で見るところ: 行動の中身、最後の一歩を残す点、形式
問2(200字)
文章Bに②直した形は残らないが、気づいた感覚は残る。とありますが、あなたが、だれかに直してもらうのではなく、自分で気づいたことで身についた経験を一つ書きなさい。そのとき、何に気づいたのかが分かるように、二百字以内で書きなさい。ただし、一字あけずに、段落での改行はしないで続けて書きなさい。
条件
- 自分の経験を一つ書く
- 何に気づいたのかを書く
- 一字あけずに、段落を変えずに続けて書く
- 二百字以内
採点で見るところ: 経験の具体性、気づきの中身、文章Bとのつながり
問3(160字)
あなたが、年下のきょうだいや近所の小さい子に、自転車の乗り方を教えることになったとします。文章A、文章Bのどちらかの考え方をふまえて、あなたならどのように教えるか、そうする理由もふくめて、百六十字以内で書きなさい。ただし、一字あけずに、段落での改行はしないで続けて書きなさい。
条件
- 文章Aか文章Bの考え方をふまえる
- どのように教えるかと、その理由を書く
- 一字あけずに、段落を変えずに続けて書く
- 百六十字以内
採点で見るところ: 役割に立った具体的な教え方、文章の考え方とのつながり、理由
問4(180字)
文章Aの司書と文章Bの陶芸の先生は、どちらも「手を出さない」ことを選んでいます。二つの文章をふまえて、人が何かをできるようになるとき、まわりの人にはどのようなことが必要だと考えますか。あなたの考えを百八十字以内で書きなさい。ただし、一字あけずに、段落での改行はしないで続けて書きなさい。
条件
- 二つの文章をふまえる
- まわりの人に必要なことを書く
- 一字あけずに、段落を変えずに続けて書く
- 百八十字以内
採点で見るところ: 二つの文章の統合、必要なことの明確さ、根拠と表現
考え方のヒント
①二つの文章の共通点をつかむ。どちらも「手を出さない」が、何もしないのではなく、問いかけて待っている。②問一は文章Aの言葉で正確に。③問二は自分の経験。「直してもらった」話ではなく「自分で気づいた」話を選ぶ。④問三は役割を引き受ける。自分が教える側になったとき、どちらの考え方を使うか決める。⑤問四は統合。二人に共通する行動を一つの言葉にする。四問で合計約六百字。時間配分は、読むのに十二分、問一・二で十五分、問三・四で十五分、見直し三分。
模範解答の例(問2)
答えは一つではありません。字数・条件の守り方と、組み立ての参考にしてください。
この問題を原稿用紙に書いて、写真を送ると数分で添削が返ります。
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この問題は EMENDIA が書き下ろしたものです。会員向けに出してから1週間たった問題の一部を、無料で公開しています(公開日 2026年9月18日)。